ファストフードが専門店を凌駕するのか?
新型コロナ禍において、ファストフード3社の売上が好調です。
日本マクドナルド、KFCケンタッキーフライドチキン、モスフードサービス。
好調の理由はテイクアウト需要にうまく対応していること。
それだけでしょうか?
ファストフードは、早くて安い即席フード。
専門店とは、別業態と市場を区別しています。
イタリア料理では、サイゼリアの全国展開。
ワインも自社直輸入で低価格です
ステーキハウスでは、いきなりステーキの大躍進。
ファストステーキは、人気のあまり、競合が乱立しました。
ファストフードは、より専門性の高い食の領域にも広がっています。
逆に専門店は、人手不足や加工品の品質向上でファスト化。
特に専門店のスタッフがファスト化しています。
メニュー料理の調理法、どんな料理にあうのか、このお酒やワインの飲み頃の温度は?
なぜ、その料理や飲物をおすすめするのか?
明快に答えられる体制を整えている店は、専門店として勝ち残っていくでしょう。
本来、専門店が得意としてきたスタッフの販売力が落ちています。
ファストフードほど行動規定に縛りが少ない分、暇になるとアルバイトがおしゃべり。
昭和の飲食店といえば、水商売と言われていた時代によくあった光景です。
商品知識の習得どころではありません。
深みのある食文化の領域は、高級店の一人舞台になってしまいます。
中堅の専門店、カジュアルな専門店は、ファストフード業界に市場を奪われていく危機にあります。
ファッションの変遷を見てみましょう。
ZARA、H&Mをはじめとしたファストファッションは、旧来の老舗メゾン主導の流行トレンドサイクルを追い抜きました。
ファストファッションは、メゾンが1年、2年かけて練り上げるモードを半年、3か月周期でしかも低価格で、生もののように提案し続けています。
地球環境や世界の貧困格差などの社会問題にも敏感です。
洋服を売っているというより、ファッションという「価値」をお客様と共有する空気感です。
ファストフードにも「食文化」があります。
今回は、前記の3社ファスト業態が築いてきた「食文化」という無形財産をたどります。
「食文化」は、重要です。
理由は3つあります。
- 食文化のない飲食店は価格競争に巻き込まれる。
- 食文化はお客様と育てる共有価値である。
- 食文化がその国の民度となり他国から尊敬される価値となる。
マクドナルドの文化
創業者、レイ・クロックは、全米を走り回るミルクシェイクマシーンのセールスマンでした。
レイは、早くて、出来立て、品質が安定しているマクドナルド兄弟の繁盛店に出会います。
車作り「フォード」の生産ラインを参考にしたビジネスモデルでした。
レイは、マクドナルドの食堂を買収し、共通品質のクイックサービスレストランを世界に展開します。
創業者、レイ・クロックのマクドナルドはアメリカンドリームという文化も内包しています。
- 常にお客様に最高の店舗体験を提供するため「QSC&V」を向上。
- Q品質×Sサービス×C清潔によるVバリュー=価値を実現。
- マニュアル(作業手順)は2500項目以上。
- No.1プライオリティは「ピープルビジネス」であること。
- ハンバーガー大学で人材を育成。
- 「スマイルゼロ円」を他社よりもいち早く教育。
映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』予告編
モスバーガーの文化
日本発祥です。
- テリヤキバーガー、ライスバーガーなど和風のオリジナルバーガーで成功。
- 注文を聞いてから作るアフターオーダーシステムで好みに合わせたカスタマイズも可能。
- 日本の食文化である出汁や発酵、味噌に醤油、水飴や果物のエキスも使用する。
- 医食同源 「安全・安心・健康」にもこだわり、協力農家にて「モスの生野菜」も生産。
日本ケンタッキー・フライド・チキンの文化
創業者カーネル・サンダースがガソリンスタンドの食堂で、フライドチキンを開発。
レシピを販売するというフランチャイズ方式で成功。
圧力釜の特許を取得。
1970年、大阪万国博覧会に日本初、実験店舗を開設。
- ケンタッキーでクリスマス、お正月、記念日、ハレの日の特別なごちそうの位置を獲得。
- ハーブや香辛料の効いたクセになるアメリカの味覚にびっくり。
- 創業者カーネル・サンダースの願いは「誰にもまねのできないおいしさとおもてなしの心」
- 創業の味を忠実に再現しているとカーネルは、日本の店舗を気に入っていた。
ファストフードは、伝統的な「食文化」とは真逆な見方をされることがあります。
確かにヨーロッパや中国大陸の王朝が食べていた高級料理ではありません。
アフリカや中東の伝統的な食文化でもない。
ファストフードは、米国経済の動脈となる自動車社会とともに発展。
さらに不況がファスト業界発展の後押しをします。
ファストフードは、欧州から新大陸へ渡ってきた移民たちが生きるために育てた「食文化」の一つです。
また、私たちは、ハンバーガーやフライドチキンにアメリカンドリームを感じています。
ハリウッド映画やグラミー賞、大リーグ、アメリカンフットボール。
アメリカのカウンターカルチャーへの憧れがコカ・コーラを始めとする飲食に価値を見出しています。
ジョージ・ルーカスが描いた60年代の青春。
American Graffitiのファーストシーンは、ハンバーガーレストラン、メルズ・ドライブインから始まります。
ユニバーサルスタジオのハリウッド・エリアにも再現されています。
ユニバーサルスタジオのハンバーガー・レストラン「メルズ・ドライブイン」
https://www.usj.co.jp/web/ja/jp/restaurants/mels-drive-in
1971年、日本では、マクドナルドがハンバーガーショップ第1号店を銀座三越にオープン。
米軍基地やアメリカ統治の沖縄にしかなかったハンバーガーが全国に。
コカ・コーラ、ハンバーガー、ハーレーダビッドソン、ロックミュージックなど、アメリカ文化が一気になだれ込みました。
ファストフードの文化をまとめます。
- アメリカのカウンターカルチャーの象徴
- 時間とお金の節約という経済性に富んでいる。
- 昔は車での移動に、今はパソコンの前にと場所を選ばない機動性がある。
食糧危機を救うと言われる人工肉。
病気を予防するデザイナーフーズ。
宇宙食がファストフードの伝統を引き継ぎ新しい食文化を作っていくのかもしれません。
新聞、雑誌が売れなくなった
新聞、雑誌の発行部数が減っています。
新聞、雑誌が社会人の常識とされていた時代があります。
ニュースを共有することが人と人のコミュニケーションに不可欠でした。
それぞれの新聞や雑誌にファンがいました。
読売新聞は巨人ファン、インテリや受験生は朝日、政治的に保守派は産経、革新派は毎日など。
経営者や管理職は日経、流通業は日経流通(MJ)、製造業は日経産業。
その他にも農業、漁業、工業にたずさわる方たちの新聞が発行されています。
今も新聞は、速報性では、ネットやテレビには負けますが読みやすさではダントツ。
大まかに時代の流れを一望できます。
2021年1月度のABC部数
朝日:4,818,332(−431,432)
毎日:2,025,962(−277,821)
読売:7,310,734(−576.252)
日経:1,946,825(−281,066)
産経:1,223,328(−125,236)
前年同月との比較でマイナス12万~43万部減っています。
とは言うものの5紙の合計で約17,325,000部
2020年度10月次で一般紙合計約32,454,000部
瞬間瞬間に入ってくるネット情報の価値を精査、整理できるので、業務に関わる新聞や雑誌は、ペーパーでもWebでも定期購読すると情報入手のリズムができます。
新聞は戦後の日本を立て直した
さて、かつての新聞は、理想に燃えていました。
戦時中の戦争扇動の責任を反省。
日本を国際社会においても一流の国にしようという理想が新聞各社の社是に掲げられています。
読者もスポーツ選手の活躍を応援し、政治家の汚職に怒り、研究者の受賞を共に喜び、新聞は、読者と共に育っていきました。
新聞社は読者の一段上から、リレーションシップを持っていました。
やがて、新聞社は、ラジオやテレビ局に出版社を持ち、巨大化します。
今、新聞に全くないとは言えないまでも、私たちがリレーションシップを感じるのは、Youtuberだったり、特定のメルマガやブログだったりします。
新聞に記事の文責として、記者名があるもののたいていは、顔を見たことも、声も聴いたことがありません。
これだけ、メディアが発達している時代に読者の元に降りてきて、会話をする事すらないというのは、どういう頃でしょうか。
記事を読むと新聞記者は、読者に取材はしているようですが意見交換をしている姿を見たことがありません。
誤報が起こり「読者モニター対話集会」を開いた新聞社はありました。
「信頼回復と再生のための行動計画」という格式ばった名称の記録がWEBにアップされています。
この双方向の情報システムが発達した時代にこれまでのやり方を変えきれない。
環境の変化に対応しきれていないように感じます。
一方通行。
ガラパゴス化しているのではないでしょうか。。
新聞者の論説委員がコメンテーターとして、テレビに出演していることがあります。
タレントとしてであって、読者と交流するために話しているわけではないようです。
戦後、新聞記者や雑誌編集者たちは、日本を幸せに暮らせる豊かな国にしようにと24時間戦ってきました。
雑誌が読者と街の文化を育てた
1964年創刊の平凡パンチ。
何か面白いことをやってやろうという情熱で雑誌編集者、カメラマン、スタイリストたちが全国、世界を飛び回りました。
若い男がおしゃれにうつつをぬかすなんてという風潮をVANやJUNのメンズモードで銀座を歩かせました。
平凡パンチは、読者と共に育ち、POPEYE、アンアンなどの若者のカルチャー雑誌へと継承されていきます。
新聞にも雑誌にも共有できる価値があった時代です。
現代は、個人が海外に飛び出し生の人や技能や芸術に出会い、学べます。
インターネットで家にいながら、仮想体験もできます。
世界が見えて、自分の可能性にも気づいています。
WEBコンテンツの作り手たちは、いち早く受け手の変化に気づき、サロンを開設しました。
受け手と交流しているから気づけたことです。
サロンでは、コンテンツの制作者と受け手の共有価値が生まれ、育っています。
売っているものが何か原点に還る
音楽の音源がデジタル化した時にも同様な事が起きました。
レコード盤やターンテーブルやレコード針が売れなくなった。
けれど、音楽そのものが売れなくなったわけではありません。
楽曲自体は、SONYのウォークマンが音楽を街に連れ出した時以上に再生されています。
楽曲ばかりか、本や講演セミナーの音声も大量に配信されています。
新聞、雑誌が扱う情報についても同じです。
新聞、雑誌を買うことがなくなっても、新聞、雑誌に収まりきらない情報が世界中でやり取りされ、活用されています。
たとえ、新聞や雑誌がWEB発信に切り替わっても、レコード盤やレコード針として機能するままなら、受け手は、自己実現できる他のコンテンツを選びます。
もしも、新聞、雑誌がいち早く、無料で情報を配信していたらどうなっていたか。
散乱した情報よりもキュレーション選別され、プロが構成した記事の方が読みやすい。
個人の情報に負けることもなく、雑誌社や新聞社が取材しきれない世界の情報を集約して、整理する情報のプラットホームになっていたかもしれない。
情報さえ、自動的に集まれば、そこから収益システムも構築できました。
インターネットのコンテンツ制作者は、新聞雑誌の失速を尻目にプラットホームを作ってしましました。
飲食店はプラットホームになろう
さて、飲食店が扱う「飲食」は、どうでしょう。
新型コロナ禍とはいえ、朝、昼、晩には、お腹がすきます。
時には、お酒が飲みたくなり、家飲み消費は伸びています。
お客様は、美味しいものを食べて、時には、美味しいお酒を飲みたい。
けれどお店は、どうしても実店舗への集客にこだわってしまう。
新型コロナ禍で、店というハードは、レコード盤のような物です。
レコード盤を買わなくなっても音楽ファンがいるように「食文化」のファンはいます。
やり方さえ間違わなければ、レコード盤という物質の縛りがあった過去よりも多くの「食文化」のファンを生み育てることも可能です。