渋沢栄一は徳川家康の適材適所の人事の工夫に学びながら人事の目的には「まったく見習うことがない」としています。
徳川家康の人事
- 関東 忠義の厚い家臣たちが関東を警護
- 主要地域 徳川御三家が東国、東海、大坂を掌握
- 朝 廷 徳川四天王の1人、井伊直正が京都圏を守る
- 各地方 要所に忠義の厚い家臣で外様を押さえる
徳川人事の目的
自分の派閥で政治、経済、社会の大きな権力を握る。
他の派閥の成長を阻止する。
渋沢栄一の人事
適材適所の工夫は家康の知恵に学ぶ
渋沢人事の目的
- 派閥ではなくて国家社会に貢献してもらう
- 渋沢のもとで世界が狭いなら独立して成果を上げてもらう
- お互い信頼しあい平等な立場で成果を上げる
家康に見習うことはなし
飲食店の事例
飲食店も起業時代は腹心の部下と昼夜議論をし、店を作り、会社を発展させます。
家康の戦国時代と同じく、さまざまな困難があります。
BSE、鳥インフルエンザ、震災、新型コロナ感染などの逆境や市場環境の変化。
サービス残業あたりまえの創業時の行軍の中で信頼を得た忠臣が幹部となり、地域や全国制覇を目指して人事采配がされます。
徳川家康の場合は、徳川家が永年にわたり権力を手にするための人事でした。
鎖国していますから、他国との競争は思考停止です。
そして、開国。
渋沢栄一は、渋沢個人よりも世界と競いあえる日本国づくりの人事采配でした。
渋沢には競争が人類を発展させるという信念もあります。
世界の国々が競争することで世界中の人々が幸せになることを願っていました。
「人間は平等であるべきだ」という強い信念は、商業専門学校、女子教育、日本赤十字の設立、養護院への援助など多くの社会事業に結びついています。
町の飲食店という小さな商売も、年間にすると延べ集客数が1万人を超えます。
何万人という人々と関わりは、影響を与え、与えられる商売です。
飲食店に配属された一人一人の従業員が徳川家のように「将軍の顔色」を伺って仕事をしているのか、渋沢のように日本国を繫栄させて、他の国まで豊かにしてやろうと「大志」を持って取り組んでいるのか。
毎日の習慣が「意志を鍛錬」して、その人を作ります。
経営者やマネージャーの意志が店の習慣を作ります。
店の習慣がスタッフの人格を育てます。
徳川家康タイプの事例
誕生祝い
お客様の誕生日にサプライズでスパークリングサービスやデザートのサービスがあります。
居合わせたお客様も一緒になって祝福してくれると嬉しいものです。
飲食店ならではのとても素晴らしいイベントです。
同じ時間帯に複数の誕生日が重なることがあります。
客室が大きな部屋の場合は、全員一緒にお祝いしてあげると盛り上がります。
しかし、その日の流れによって、個別に対応せざる負えません。
そんな時にこんな事が起こります。
Aさん、Bさん、Cさんのお祝いの熱に差が出てしまうのです。
- Aさんは、常連。
- Bさんは、初見のお客様。
- Cさんは、お店の従業員。
Aさんには花束やスタッフからのメッセージカードが贈られ
Cさんには従業員総出でキッチンからシェフまで飛び出して満面の笑顔でお祝いしています。
Bさんは、形だけです。
Bさんが知ってしまうと多分、差を感じます。
幹事役の友人は、この店で誕生会をやったことを後悔しているかもしれません。
見ている居合わせたお客様も違和感を感じる場合もあるでしょう。
初見のお客様Cさんは、二度と来ないかもしれません。
誕生日の嫌な思い出は忘れられないものです。
店の社長が来店
店の上司が来店して、従業員が挨拶に行くのは礼儀として当然です。
そんなわけで、お忍びでリサーチに来ていたのに身バレしてしまうことがあります。
他のお客様に店の人だとわかってしまっています。
お客様にどうやら社長が来たらしいと注目されている状態であれやこれやと料理や飲物をサービスする場合があります。
自分の売り込みの場合もありますし、試作品や新商品を提供する場合もあります。
社長としては最終的な原価を合わせてくれればいいことで、身銭を少しでも身銭を切らなくて済ませられるのは助かります。
社長が試作品を食べていたとしても今日の予算を気にしながら、食べているお客さんにしてみれば、羨ましい立場です。
「休みの日に出てきて店の点検か、店舗管理と商品開発も大変だな」
と思ってくれるのは同業者だけです。
外部のお客様は「どうせお金を払っていかないんだろうな。
飲食店の社長が自分の店の商品をタダで食べるのはしょうがないか、所詮は飲食業だから」と業界への蔑んだ気持ちが芽生えるかもしれません。
社長も仕事ですから、当然だと他のお客様を気遣うそぶりもありません。
一方、こんな気さくな社長もいらっしゃいます。
そばに居合わせたお客様に「これ食べてみてください。まだ、手をつけてないですから」と新商品をごちそうするのです。
全額、ご馳走するわけではありません。
新商品をお客様に食べていただき直に自分の目と耳でお客様の反応を見るのです。
「いつもありがとうございます」と名刺も渡します。
店長を呼んで、「こいつをよろしく頼みます。指導してやってください」なんて、従業員とお客さんを自分をネタに繋げます。
万事が商売、戦場の心構えです。
お客様は、あの店のオーナーに会ったと口コミします。
しかも好印象で。
芸能人に偶然出会ってしまった一般人のような気持ちです。
ある飲食店での実例です。
偶然、その店の社長さんと隣り合わせたことがあります。
どんな経緯でそんな事になったのかは忘れましたが社長が自ら中国茶を淹れていただきました。
新しい食文化を教えていただいた面白さと社長のお人柄を感じさせた記憶として残っています。
そうした行動がとれる経営陣は、どんな飲食店、どんな場所でも同じことをやっています。
葬式でも、結婚式でも自分自身が店を代弁するメディアであることを知っています。
お店の存在意義、経営の目的も明確です。
従業員も社長のやり方を見習います。
どんな時もお客様ファーストが習慣化します。
社長であってもお客様を優先することが習慣化します。
真逆もあります。
従業員がオーナーの意向よりも店長や料理長の顔色を伺うパターンです。
オーナーが料理人に辞められたら困ると店長や料理長に気を遣いまくります。
スタッフは、お客様よりも店長や料理長の意向を優先します。
お客様のお願い事をアルバイトが言い出せません。
賢いアルバイトは、お客様の意向を店長に伝えずにその場でお断りするでしょう。
時給は変わらないのに店長、料理長とお客様の間に立って嫌な思いをしたくありません。
- 徳川家康の人事
- 渋沢栄一の人事
事業は、結果がすべてです。
どちらが正しいかという話ではありません。
どちらの会社を選ぶかという私たちの選択です。